投稿日 2014年06月20日
「国家安全保障戦略」の廃止と
「集団的自衛権行使」の否定を求める意見書
はじめに
安倍政権は、憲法第9条の解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認しようとしている。これは、立憲主義を根底から否定し、憲法9条を廃棄するに等しい行為である。
これに先だち、2013年12月4日、日本版NSC(国家安全保障会議)が発足し、最初に「国家安全保障戦略」(同年12月17日・同日閣議決定)が決定された。内容は「積極的平和主義」を明らかにし、国益について検証し、国家安全保障の目標を示し、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に積極的に関与していくという国の安全保障政策にかかる基本方針を定めたものである。その直前に成立した特定秘密保護法、「国家安全保障戦略」後の「武器輸出3原則」を廃止し武器輸出を原則自由とする「防衛装備移転3原則」の閣議決定、そして、今回の集団的自衛権行使の容認への動きは、この「国家安全保障戦略」の具体化である。
「国家安全保障戦略」は憲法の基本原則を無視し、この国のあり方を変える重要な政策方針である。本意見書は安倍政権の「国家安全保障戦略」について憲法上の問題点を指摘してその廃止を求めるとともに、集団的自衛権の行使を否定するよう、強く求めるものである。
国家安全保障戦略の概要
策定の趣旨
我が国が掲げるべき理念である、国際協調主義に基づく積極的平和主義を明らかにし、国益について検証し、国家安全保障の目標を示す」「政府は、本戦略に基づき、国家安全保障会議(NSC)の司令塔機能の下、政治の強力なリーダーシップにより、政府全体として、国家安全保障政策を一層戦略的かつ体系的なものとして実施していく」と述べ、概ね10年をめどに積極的平和主義に基づく国の体制作りを行うというものである。
積極的平和主義という概念
「国際協調主義に基づく積極的平和主義を我が国が掲げるべき国家安全保障の基本理念」とすると述べ、抑止力を強化し、日米同盟を基軸としつつ、紛争の解決に主導的な役割を果たし、国際機関に対しより積極的な貢献、総合的な防衛体制の構築、領域保全に関する取り組みの強化、中国の動向について慎重に注視し、シーレーン沿岸国家等の海上保安能力の向上、秘密保護法の下政府横断的な情報保全体制の整備、国際協調主義に基づく積極的平和主義の観点から、防衛装備品の活用などによる平和貢献・国際協力に一層積極的に関与、武器輸出3原則の新たな原則をつくるなどと述べている。
これらの文言から見えてくる積極的平和主義とは、憲法9条に基づく平和主義を積極的に世界に発信することではなく、軍事力の強化により発言力を高め、その威力で紛争を解決しようとするものであり、9条の精神とは反するものであり、憲法違反の集団的自衛権の行使をも容認しようとするものと言わざるをえない。
各施策の位置づけ
国家安全保障戦略の中で位置づけられている各施策を概観する。
日本版NSCについては迅速機動的な国家安全保障戦略の実現のための司令塔として設置し、秘密保護法により、国家安全保障戦略を支える情報統制体制を確立するとしている。
日米同盟についてはより強化し、安保体制の実行性を一層高め、より多面的な同盟を実現、日米防衛協力のための指針の見直し、弾道ミサイル防衛など日米同盟の抑止力、対処力の向上、装備・技術面での協力を進め、積極的平和主義の実現のための不可欠な施策と強調している。その他、防衛生産・技術基盤の維持・強化、情報発信の強化と並び社会的基盤を強化すると述べ、その中で我が国と郷土を愛する心を養う、領土・主権に関する問題等の安全保障分野に関する啓発や自衛隊、在日米軍等の活動への理解を広げる取り組みを強め、知的基盤の強化としては高等教育機関における安全保障教育の拡充・高度化・実践的な研究を行うとする。
これらの教育を含む各施策から見えてくる「積極的平和主義」の目的とする国益とは、国を繁栄させ、軍事力を高め、世界にアピールする力を強めるということであり、「富国強兵」策ということであろう。
日本国憲法の3原則との決別
平和主義との決別
国家安全保障戦略で述べる政策はいつでもで武力行使のできる体制作りであり、「政府機関のみならず地方公共団体や民間部門との間の連携を深めるなど、武力攻撃事態などから大規模自然災害に至るあらゆる事態にシームレスに対応するための総合的な体制を平素から構築していく」と言い、一方で、領域主権や権益を巡り、純然たる平時でも戦時でもない事態、戦時と平時の間のグレーゾーンの事態にも即応できる体制をとるとも述べる。
そのために情報収集能力を高め、その情報は秘密として保全する体制、常に戦時を予測し、秘密で政策を決定していく体制。そのための秘密保護法という仕組みが浮かび上がる。
安倍政権のいう「国際協調主義に基づく積極的平和主義」とは、戦力を持たない、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」国際紛争は外交で解決しようとする日本国憲法の平和主義を捨て去るものである。
民主主義、国民主権をないがしろにする
国のあり方を変えるこれら重大なことがNSC(国家安全保障会議)において限られた閣僚だけで秘密裏に決められ、そのまま閣議決定される。
平和主義、平和国家を標榜してきた日本の国のあり方にも大きく影響する政策をその政策決定過程を秘密のベールに包んだまま決めてしまうやり方、国民の生活にも影響する政治のあり方について国民は何も知らされないままに、知ろうとすれば秘密保護法で処罰される、国民には知らせずに大事な政策を次々と決めていく、しかも一部の閣僚だけで決めていく政治は民主主義とは相容れない。国民主権をないがしろにするものである。
基本的人権の侵害
平時から戦時体制を想定した制度作り、領土保全が国益として位置づけられ、いつでも武力行使できる制度作り、その制度を支えるための情報管理・統制のなかには主権者たる国民の知る権利をも侵害する秘密保護法による体制作り、国益のためには国民の人権も制限されかねない。戦前の富国強兵策のもと人権が侵害されてきた歴史を再現させてはならない。
国家安全保障戦略の廃止と集団的自衛権行使の否定を訴える
集団的自衛権の行使容認の解釈改憲は、国政の基本である立憲主義を破壊する暴挙であり、それは安倍政権の政策の方針を示す「国家安全保障戦略」に基づくものである。私たちは憲法の3原則である平和主義、国民主権、基本的人権の尊重を侵害する「国家安全保障戦略」の廃止と、その具体化である集団的自衛権の行使を否定するよう、強く求めるものである。
2014年6月19日
東京都日野市日野本町3-13-16
NPO法人 日野・市民自治研究所
理事長 山 本 哲 子
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